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新作『しあわせのイメージ』のリリースに合わせての対談相手に豊田が指名したのは、大先輩にあたるシンガー・ソングライター、中川五郎だった。中川は、60年代に高石ともやらと関西のフォーク・ムーヴメントの一翼を担い、URCからデビュー。70年代以降は、歌詞の対訳や小説、ライナーノーツなどの執筆にも取り組み、2004年の春には26年ぶりのアルバム『ぼくが死んでこの世を去る日』をリリース。現在も年間150本にも及ぶライヴを行っているという。彼の私小説的な歌詞の世界にはどこか豊田同様の生々しさを感じてしまうし、ふたりとも、気も狂わんばかりのロマンティストという意味では共通の資質を有しているように思う。そんなふたりが、これから何を、どう、誰に向けて、そして何故歌うのか?を語った。幾度となく下ネタに脱線しつつも、歌の本質に話が及ぶと表情が途端に真剣に変わったのが何よりも印象的だった。

対談進行 & text: 土佐有明


中川 これ、僕のいちばん新しいアルバム(=『そしてぼくはひとりになる』)。豊田君、持ってないだろうと思って持ってきたの。結婚祝いに差し上げます。
――新婚の豊田さんへのご祝儀が、『そしてぼくはひとりになる』ですか(笑)。
中川 『しあわせのイメージ』とはえらい違いのタイトルだね(笑)。
豊田 いやー、ちょうどこの前結婚して子供もできてレコード作って、さあこれからどうしようかっていうところなんですけど。
中川 信じられないよね。でも新作、子供ができて変わるかなって思ったら、わりとそうでもなかったね。今回はまだ序の口で、これから歌うことが変わっていくんじゃないかな。
豊田 次のレコードも既に作ってるんですけど、それもそんなに変わってなくて。だから、5年後くらいに変わってるかもしれない。
中川 僕も豊田君も自分のことを正直に歌うタイプだから、結婚すると、歌いたいことを歌いづらくなるよ(笑)。その状況を楽しんで欲しいけど。
豊田 でも、五郎さんはそういう、歌いづらい曲もたくさん作ってきましたよね。
中川 だって、結婚してからも他の女の人を好きになったら、それをそのまま歌にしてきたんだもん。
豊田 すごいですよね。五郎さんみたいな人って、いそうでいないんですよね。
中川 結局、自分の暮らしを犠牲にしてまでいい歌を作りたい人って、そんなにいないと思うんだ。パートナーができてからも私生活を歌にするっていうのは、よっぽど相手の理解がないと。例えばすごく単純な話、他の女の人をいいなあっていう歌を歌うだけで文句言う女性だっているわけだしね。女性の固有名詞を入れて怒られたり(笑)。今度また、固有名詞がたくさん入ったアルバム作りを検討してるんだけど。今までつきあった女性のフル・ネームを曲名にしたり(笑)。でも、聴く人にとっては豊田君がパパになったことって関係ないのかな。女性リスナーが減ったとかって、ない?
豊田 それが、最近は若い男性ファンが多いんですよ。それも、ちょっと童貞系の。前は客のほうがちゃんと生活して街で遊んでる感じだったのが、今は客が遊んでないですよ。
中川 暗い童貞系の人に聴かれてるんだ。それは正しいよ。
豊田 なんだろう。やくざ映画観るみたいに、自分の日常とは違う、フィクションの世界を覗き込むみたいに楽しんでるんじゃないですか。あと、カップルのお客さんが多くて、どういうプレイなんだろう?って思う(笑)。それから雰囲気が、学校に来てるみたいっていうか、やけにおとなしい。昔はミュージシャンと同じくらいのテンションの人がライヴハウスに来ていて、こっちも気合入れないとっていうのがすごくあったけど……。そういう意味で、五郎さん、ライヴをやっていて徒労感とかないですか? 身を削っていい演奏しても、そんなに大きな反応が返ってこなかったりするじゃないですか。
中川 でも、たったひとりにでも通じた時は達成感があって、やり続けようっていう気持ちになるけどね。ある時期から、たくさん人が集まればいいとか、経済的に成り立てばいいとかよりは、歌いたいことを歌って、それが聴いてくれる人に通じたり、届けばいいやって思うようになった。
豊田 あとね、最近よく思うのが、みんなラヴ・ソングを歌ってないし、歌ってても良く分からないっていうこと。
中川 いちばん正直に自分の気持ちを歌う曲は、作るのが難しいんですよ。頭の中で考えた絵空事で成り立つラヴ・ソングは作りやすいし、逆にセックスだけの歌は、それはそれで簡単に作れる。でも、その中間の、女の人を好きになっちゃって、でもどうしていいか分からなくて、毎日ドキドキしてるんだけどうまくいかない、そういうまともな恋の気持ちを歌にするのが実はいちばん難しい。そういうのが歌えればいいんだろうけど、でも、奥さんに怒られるよね(笑)。
豊田 うちはそういうのないですけどね(笑)。ところで、五郎さんは昔フォーク・ソングを歌っていて、最近はラヴ・ソングというか、個人的な歌が中心になっているわけですよね。今の日本の社会と関わるような歌を作ろうとは思わないですか?
中川 僕は自分のことを歌いたいかな。社会的な歌を求める人ってほんとに音楽が好きなんじゃなくって、自分のたちの運動に使える音楽があればいいって思ってるところがあるんだよね。
豊田 そういう実感があったんですか? 当時は。
中川 音楽が運動の道具だったっていう感じはあったね、当時。
豊田 でも、五郎さんが今の日本をどう見ているかを、音楽で聴いてみたい気がするんですよ。
中川 でも、真面目にそういうことを歌にしても、今の日本の社会では誰も聴いてくれないと思いますよ。象徴的な例でさ、「千の風になって」みたいな、嘘っぽいのがすごい受けるわけじゃないですか。
――でも、個人的な体験を突き詰めて歌にすれば、自ずと社会的なことも背後に浮かびあがってくるのでは?
中川 そりゃあ当然ですよね。僕らは社会に生きているわけだからね。僕らが昔フォーク始める前、音楽は絵空事で、逃避の手段だった。自分たちの暮らしは苦しいけど歌うのは楽しいよっていうね。そこで僕らは、自分のたちの生きている場所や現実を歌にし始めたんだよね。
――そういえば、誰かが五郎さんの歌を“女々しい”と評価していたんですよ。それも、決してネガティヴな意味ではなくて。五郎さんと豊田さんの歌に共通点があるとしたら、“女々しさ”なんじゃないか、と。今回思ったんですよ。
中川 それはあるね。そういうところが共感するっていうか、ソウル・ブラザーなんだよね(笑)。
豊田 女々しい歌を歌うっていうことは、どこかで傲慢っていうか、甘えがあるんですよね。
中川 で、その正反対がかっこつけなんだよ。全部さらけだして歌う人と、いいかっこしてる人といるでしょう? かっこつけてるからダメだとか言うつもりはないんだけど、寂しかったりつらかった時の気持ちを正直に歌ったもののほうが、僕はピンと来るよね。いいかっこした歌は、確かにかっこいいかもしれないけど、僕には伝わらないんですよ。
――ただ、先ほどの話にもあったように、正直に自分に気持ちを歌うのは、リスクが伴う。
中川 そうですよ。だから、極端なこと言えば、歌のために人生棒に振らなきゃいけなかったりもする。でもそれをやるには相当の覚悟がいるし、自分の身を削らなくちゃならない。いい歌を作るとかいいアルバムを作るよりも、幸せな生活を選ぶ人の方が多いんじゃないかな。傷つけたり傷つけられたり、不幸な体験をしたら、そこからいっぱいいい歌が生まれてくるだろうけどさ……。
――そういう人って、精神的に満たされてしまったら、いい歌も書けなくなっちゃうんでしょうね。心にどこか欠けている部分があるから、それを埋めようと必死に歌おうとする。それが実直な表現を生む。
中川 うん。自分の生き方とか人生と絡めて音楽作る人は、苦しかったり辛いことがあったらいい歌ができますよ。でも、そういういのとは全然関係ないところで、絵空事で曲書いている人はやまほどいるんですよね。歌と歌う人との間に大きな距離がある。そういう人は浮気しようが奥さんの他に好きな人ができようが歌に反映されないし、反映させない。現実とは関係なく、いつもの通りに綺麗な詞を書いて、うまくアレンジをすればヒットする。そういう歌ばかりがうけちゃうのって悔しいよね。そうじゃない歌こそみんなにもっと届いてほしいんだけど。それは、聴く人が音楽に何を求めているかの違いだよね。単に楽しいからとか、気晴らしで聴くっていう人と、音楽に自分の切実な思いを重ねあわせたいっていう人がいるわけだから。でも、たとえ少数でも、後者の人に向けて僕は歌いたいわけだから。そういう風にしてこの先ずっと歌い続けるのは覚悟がいるけど、手応えがあるし、楽しいし、意味のあることだと思ってる。
豊田 僕の音楽を聴いている人って色々なひといるけど、ある程度生活に余裕があるひとも多いです。色々ライヴ見に行ったりレコード買ったりして。自分もそうなんだけど。でもその中でもしんどい思いしているひともいる。色々なひと、色々な状況があって、でもその中で切実に求めている何かがあるわけで。その何かを、明日を照らすようなことが出来ればいいんだけどってずっと思ってます。言葉には出来ない何か。曖昧でむつかしいんだけど、そこが音楽でしかやれないことなんじゃないかな。面白いと思っている限りは僕も続けますよ。

(対談進行 & text: 土佐有明)

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