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Portral(ポートラル)のファースト・フル・アルバム『Refined』のリリースを記念してスペシャル対談が実現しました!
ヒップホップからキャリアをスタートさせ、これまでに3枚のアルバムを発表しているトラックメイカー、Inner Science(インナー・サイエンス)によるノンビート・プロジェクトであるPortral。ヒップホップを軸としながらハイ・クオリティな良質音源を提供し続けた最重要レーベル"トライエイト・レコーディングス"を牽引した栗原大。Portralのファースト・ライヴから映像を担当し、「Roal」のプロモーション・ヴィデオの監督でもある映像作家、10K。
音作りの話から映像、ジャケット、その人となりに至るまで。Portralを古くから良く知る2人だからこそできる、濃密なトークセッションをご堪能下さい。
Portral 『Refined』

発売記念対談




対談:Portral,10K (OUTERLIMITS Inc.),栗原大
聞き手:西山伸基(HEADZ)

栗原 大:Chu君(ポートラル)に初めて会ったのっていつだっけ?

Portral:Nuts(渋谷のクラブ)じゃないですか? 僕が働いてた時。KenseiさんがNutsでやってたパーティの時とか? 

栗原:でも僕Chu君がNutsで働いてるっていうの知らなかったよ。話には聞いてたけど、働いてる時に実際に会ってはなかった。だからその後ぐらいかな。気がついたらサンプルもらうようになってたもんね。もらうサンプルの封を開けると、いつもお香の臭いがするんだよね。それで強く印象づけられた、Chu君っていうひとを。

10K:僕がChu君に会ったのはずうっと昔。まだChu君が二十歳そこそこでしたね。当時僕はラップのイヴェントをやったんですけど、そこでいろんなひとに出てもらってて、その中にChu君がいたんです。

栗原:それそうとう昔だよね。羽切君にそのイベントのヴィデオテープもらった記憶があるよ。

Portral:まだ僕が専門学校の時ですね。そこで知り合って、そのあと僕が最初に作ったデモテープのお金を出してもらったのも羽切君なんです。

栗原:え、そうなの?

Portral:羽切君にはほんとうに恩があるんです。その時作ったデモテープを渡したのがK-Bomb(シンク・タンク。Killer Bong他の名義でも活動)で、そういう動きを気に入ってくれた彼のテープ・アルバムに僕が入って、その流れもあって自分のレーベル(oneower)やるようになった時に作品出してもらったり、逆にシンク・タンクまわりの作品でエンジニアリングやるようにもなったりとか。

栗原:そのきっかけを作ったのが羽切君なんだ?

Portral:羽切君のおかげなんです。だからほんと感慨深いですよ、今一緒にここにいるのも、ポートラルで映像やってもらうことになったのも。

──そもそもポートラルは、ビートミュージックを出自にしている人物が、あえてその土台としているビートを取り払うという点で、かなり大胆な変化を打ち出したプロジェクトですが、MCであり、インストゥルメンタルのアーティストであり、エンジニアであり、レーベルオーナーでもあったりと、活動の初期段階からかなり幅広い活動をしていた人物がこのプロジェクトを新たに始めることになった経緯はどのようなものでしたか?

Portral:基本的には自分が楽しかったのでやってみた、というスタンスなんですけどね。

栗原:でもChu君の音楽って、僕らのような昔からのビートミュージック世代とはちがって、ビート自体音楽の要素の一部分として他の要素、例えばメロディとかと並列に存在している気がして、そういう意味ではビートを抜いてみることに驚きがあるわけじゃなかった。

Portral:うん、さらに言っちゃうと、インナー・サイエンスだって、ウワ音とビートが別々でもいい、っていうか。それぞれ別個に取り出してもそれだけで聴けるようになってるし、逆に言うと、"なんでそれをくっつけちゃったんだろ?"って自分でも思ったりするんですよね。

栗原:そう。例えばChu君が自分でやっているアートワークだって、すごくエフェクティヴな面を強調しているんだけど、逆にアートワークのフォーム自体はひとつに留まっていないというか。

Portral:あ、それは鋭い指摘ですね。ほんとその通りなんですよ。だから作ってるほうは違和感とかもあんまなくって。ポートラルは、その中でもある一方に特化しただけなんですよね。

栗原:音源をサンプリングからのソースのみにしたのはなぜ?

Portral:アンビエントって、今はシンセシスで作られているものが多いのかもしれないけど、"別にサンプリングを加工したっていいじゃん"と。ほかにあんまりサンプリングでアンビエントやっているひともいないし。特に僕のような気分──ヒップホップのサンプリング・カルチャーを踏まえたうえでサンプリングのアンビエントをやるひとって他に見あたらないしこれは面白いなと思って。作っていてもそうだし。シンセシスの方向に向かうと、多分音の作り方自体変わってきちゃうし、もっとテクノ的な文脈でのアンビントになってしまうんだろうけど、まず最初はそうではない方向からアンビエントに取り組みたいな、と。

──ポートラルはアンビエントではあるけれど、とてもループ感が強くて、そこがヒップホップのサンプリングカルチャーと直結している部分ですよね。

Portral:そうですね。

栗原:ちなみにどういうレコード使ってる(サンプリングしている)の?

Portral:実はそれ、自分でもまったくわかんないんですよね。たぶん300円とかで買ったレコードしか使ってないっていうか、それ以上高いの買えないし(笑)。

栗原:昔のレコード? 

Portral:もちろんもちろん。

栗原:ジャズとかファンクとか?


Portral:フュージョン(笑)。ディスクユニオンのフュージョンコーナーとか、見たことある皿が多いです。

──使ってるレコードがわからないっていうのは、覚えてない、ということですか? それともサンプリングを録り貯めてる時に、元ネタの名前とかつけてなくってもうどれが誰のレコードかわからないとか?

Portral:そう。貯めてあるやつはもうどれがなんだか覚えてない。

栗原:サンプルのアーカイヴから引っ張ってきて楽曲作る時は、パーツ毎に細かいネタを持ってくるの? それともわりと長めのサンプルを加工してる?

Portral:ポートラルの時は長くても5秒ぐらいじゃないですかね。だから長く聞こえるパーツは、短いのを加工して遅くしてるんです。

──では基本的にアルバムの制作は、短い音源を引き延ばしていく方向で作られている?

Portral:そうですね。あと、延ばした音を切りつめる作業も多くて、あるひとつのサンプルを延ばして切りつめるから、すごく還元化された音楽でもあるんです。

──音の響き的にはすごく現代的な電子音楽だとも考えられるんだけど、それがフュージョンを還元化していった結果だというのは面白いし、ある意味現在の電子音楽に対する皮肉だと考えることもできますね。

Portral:うん。フュージョン"が"好きです(笑)。インナー・サイエンス名義でP-Vineから出したセカンド(『No Name, No Place』)の時に、それを聴かせた僕の知り合いに"これってフュージョンだよね"って言われたことがあって、その時からフュージョンっていう言葉が僕のなかで気になってるんです。常に意識してるんですよ(笑)。fusion=融合。確かに、と思って。
──先ほど栗原さんが、Chu君が作っているヴィジュアルと音楽との関係性について触れられていましたが、ポートラルは自分ひとりだけでヴィジュアル・イメージを完結してしまうのではなくて、羽切さん(10K)の映像とのコラボレーションに比重を多く置かれていますね。

Portral:そうですね。まず、アートワークに関しては、後付けで考えてます。ポートラルのアルバム・タイトルは『Refined』で、その名の通り「再調整」という言葉がある種コンセプト的にあって、それはレコード・サンプリングという技法自体もそうだし、自分が弾いた音にしても、弾いたものをそのまま使うのではなくて、様々に加工して細かい調整を施して、それによって元のカタチとはまた別のものを提示する、ということなんです。で、それの延長にアートワークがあるんですけど、考えると、音楽の作り方とアートワークの作り方って、たぶん変わらないですね、僕の中の意識的には。ただ、あまりに音とヴィジュアルを一人だけでやりすぎると、予定調和的になりすぎてしまうじゃないですか。だから羽切君のようなひとにライヴで映像やってもらったり、ヴィデオ作ってもらうと面白いかな、って。

──羽切さんとしては、元からChu君がヴィジュアル・イメージを多数出しているうえで、そこに自分の映像をさらに持ってくるという作業になりますが、その中で意識されていることなどありましたか?

10K:もともと僕はChu君がライヴをやる時に一緒に映像を出してることが多くて、それが面白い経験だったんですよ。それでヴィデオもその延長で作ることになったんですけど、僕は自分の中で、パーティでVJすることと、バンドとやるのと、ポートラルのような持続音と一緒にやるのと、それぞれでやりたい方向性があって、そのうちのひとつとしてキレイにはまるのがChu君と一緒にやることなんです。ライヴで一緒に演奏している感じがすごくあって、でもお互いにあんまりエゴがないんですよね、ライヴといっても。一緒に空間を作っているかんじっていうか。

──確かにそういう意味ではポートラルの音自体も、VJに近いところがあって、空間的で、装飾的で、エゴがない、つまり、空気感を楽しむかんじは強いですよね。

10K:うんうん。

──羽切さんとポートラルの共通点は、それこそポートラルに「Lights EP」っていう作品がありますけど、「光」を強くかんじさせるところではないかと思うのですが。具体的な「物」としての映像を見せるというよりも、色合いなり明かりの加減で見せていくようなかんじ、という点で。

10K:そう。「質感」みたいなところにふたりとも興味がありますよね。

栗原:映像自体、意味性は強くないんだけど、じわりとしたスピード感とか、細かな細部がじっくり変化していくところとか、音楽と合わさったひとつの作品っていう印象をすごく受けるよね。

Portral:最後ヴィデオを仕上げる段階で二人で話したのは、"これ最後にオチあったほうがいいのかな?"っていうことなんです。PV的な観点からいえば、オチがあったほうがいいんでしょうけど、でもVJとしての土台があってこその映像を作る10Kさんに頼んでいるわけで、やはりオチなんて必要ないんじゃないか、ってことに最終的には落ち着いたんですよね。ヴィデオとしては特に映像に大きな変化がなく流れてそのまま終わるんですけど、それはVJ的な観点からの、"このヴィデオはここで終わるけど、映像は、パーティは、このまま続いてるんだよ"っていう考えの表れなんです。

10K:そもそもポートラルって、場所にとらわれない音楽じゃないですか。ブライアン・イーノの『Music for Airport』のように、環境に適応できる音楽だと思うし、輪郭だけで意味を持たせるんじゃなくて、考えるスキマがあるというか。そういう面が映像でも出ればいいな、と思って。

Portral:なんか僕最近、意味性にこだわるのは避けるようになってるんですよね。たぶん、自分でラップやらなくなったのもそういうところにあると思うんです。

栗原:うん、さっきわりとあんまり考えずにポートラルのような音ができていった、というようなことを言っていたけれど、実際はそうではなくて、まだ自分では気付いてないかもしれないけど、本当の理由っていうのがあるはずだし、それがそのあたりにあるのかもね。

Portral:ああ、ラップをしなくなったことの延長で、なにかメッセージ的なものを発することへの抵抗はあるでしょうね。別の言い方をすれば、色々な意味で、察して欲しい、みたいな気持ちもあったり。
──ラップすることへの抵抗は、意味性がダイレクトに伝わってしまうことへの反発からきているのですか? それは言葉があるからダメ、ということ? 例えば、文脈に意味を持たせない言葉を繋いでラップする、というのもダメですか?

Portral:それはあれですね、もし自分がそういうラップをできていればよかったんですけど、スキルが足りなくてそれをできなかったから(笑)。それは本当にそう思ってます。うまく直接的な意味性をかわしていくMCのひともいるじゃないですか。でもなんか、自分ではそれができなかったんですよね。かといって、自分から言いたい、言えるメッセージなどなにもない、みたいなところまで考えてしまって。

栗原:じゃあもともとなんでラップしようと思ったの?

Portral:そこなんですよ、不思議なのは(笑)。でもそれもたぶん、誰かに何かを伝えたくて始めたわけではないというか。

10K:人前に出るのが好きだったとか、そういうこと?

Portral:うーん、最初にラップ始めたのって、まず知り合いがダンスをやってて、でも僕はダンスできないから、なにか他のことをやらなきゃいけなかったんです。かといってターンテーブル買う金もなくて、そうするとその時の発想では、マイクがあればそれでオーケーなラップしかなかった。あと、ひとりでできるじゃないですか。中学の時とかバンドやってたりしたんですけど、コミュニケーションをとらないとバンドってできないじゃないですか、あたりまえですけど。そこに問題が…(笑)。

栗原:でもひとあたりはすごいいいじゃん。

Portral:いや、それは処世術を学びましたって事で(笑)。

栗原:でも昔っからひとりですごい数のタイトル出してるし、レーベルも自分の作品だけでなくほかのひとの作品とかを細かくケアしたりしてるし、Nutsで月に一回ぐらい会うと毎回新しいサンプルを渡してくれてたし、ひとりでなんでもやってる印象は強いよね。

Portral:まあでも、ひとりでやるのってラクじゃないですか。だからある意味、まぁ的確な言い方じゃないかもしれないけどそこから逃げてるのかもしれないですね。ひととやっていくことから。さらに言っちゃうと、なにかを表現した時そこに生じる、ユニティみたいなものからも逃げてるんですよ。

──そのいくつかあるChu君の表現手法の中でも、特にラップはユニティのようなものと直接的に繋がりすぎていた? 

Portral:スキルがないからその地点でそれをかわせなかった。

10K:今音楽をやるモチベーションは何なんですか?

Portral:深いなー、それ(笑)。まあ自分が楽しいから、なんでしょうね。それしかないと思ってて。僕は誰かのために音楽をできるような身分、身分というか、立場じゃないので。結果的に僕が、音楽を通じて世界のためにできることが、もしあるとすれば、自分が好きなことをやっていくことでしか貢献できないし、それをやっていくしかないんだけど…まあ、そこまで思慮深くないから(笑)。

10K:いや、さっきの話じゃないけど、レーベルを一人でやり、いろんな名義を持ち、ひとの作品も出してるわけで…なにかあるはずなんですよ、Chu君には目的が。

栗原:うん、あるでしょ。最初のお香の話もそうだけど、お香って、個人の象徴なわけじゃない、やっぱ。もともとはメディテイティヴなものだし。だからChu君にもらったサンプルの封を開けるということは、お香と一緒に個人主義が立ち現れてくるということなんですよ。

Portral:自分の事ながら、そこに個人を投影してどうすんだ、ってかんじですけど(笑)。僕は、ひとになにかをやってもらうっていうよりは、自分でそれをやりたがるタイプなので、逆に言うと、個人でできることしかしないしできない。だから僕のレーベルのoneownerは──今は活動をやめちゃったんですけど──その段階で個人でできることをやった気でいたんです。いろんなひとにリリースしてもらって、それでやりきったつもりでいたんです、勝手に(笑)。自分がレベルアップしないと、次のステップにはたぶんいけないと思って。でも今はまず自分のキャパを広げつつ、次の動きの準備をする時期なんだと思ってますね。それも勝手に、ですけど(笑)。

sample1:mual
Portral 『 Refined
(vector/HEADZ)
¥2,500
CDの詳細はこちら

website
http://www.masuminishimura.com

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