2.

ーー現在のいわゆるニューヨークのダウンタウン・シーンはどのようなものでしょう。そうしたシーンをどのようにとらえていますか?たとえば、この作品はその状況を反映したものなのでしょうか。少なからず音楽家(もちろんひいては表現者)は、自分の置かれた状況を対象化しながら作品を作っていると思いますが。

恩田:まず、ニューヨークの「ダウンタウン・シーン」と言われると、80年代のジョン・ゾーンらに代表されるアヴァンギャルド/エクスペリメンタル音楽の流れを思い起こしますが、実際はそれだけではない。この都市の音楽のシーンは多様性があり、なおかつ層の厚みがある。

リクト:ルーレット、ISSUE・プロジェクト・ルーム、ザ・ストーン(いずれもニューヨークの演奏会場)などは、いわゆる「ダウンタウン・シーン」に属していたミュージシャンや、その関連のシーンのミュージシャンが演奏していますが、(1年前に閉鎖された)トニックは例外的に他のジャンルのミュージシャン達も受け入れていました。たとえば、インディー・ロックやノイズなどです。わたし自身について言えば、90年代はラン・オンなどのグループで演奏していたため、インディー・ロックのシーンに属していると見なされ、エクスペリメンタル音楽のシーンではほぼ無名でした。ところが、00年代になってから、わたしのキャリアはエクスペリメンタル音楽の分野で定着していった。ですが、いまだに、わたしの音楽に対する基本的なアプローチは60〜70年代のロックから強い影響を受けています。さらに言えば、わたしは、ポピュラー音楽ですら、新たな音楽のあり方を探求するという意味合いでは、ある種の実験音楽だと見なしています。ポピュラー音楽特有の次から次へと新たなスタイルを生み出そうとする差し迫った緊張感は好きです。それに反して、どんなスタイルでも、硬直化し誰もがそれを繰り返すようになると、音楽のエキサイトメントが薄れてしまう。

恩田:わたしは、必ずしもニューヨークのある特定のシーンに属しているとは思わないんです。エレクトロニス・ミュージックや即興音楽のイベントで演奏することも多いけれど、それらのスクールに属しているとは思っていない。むしろ、アクセスがあると捉えている。

ーー恩田さんの発言には、つねにオルタナティヴな位置に自分を置く、というような姿勢を感じますが、シーンなりの内部に身を置くのではなく、外部からコミットしていくような自分の活動と、その音楽の場所をどのように位置づけますか。

恩田: 子供の頃から集団に属するのが苦手で、学校にもろくすっぽ行かなかったし、音楽を学ぶ上でも特定のスクールに属すことはなかった。わたしはすべてを独学で学んできたんです。でも、大学教授がふたりいる家庭で育ち、学者やアーティストのコミュニティーのなかで育ったので、文化全般に於いてアカデミックな(体系的な)言語を理解することもできる。“アウト”にいるのだけれど、“イン”も知っているということですね。「外部からコミットする」というのは、そういうバックグランドのせいかも知れません。より正確に言えば、わたしの位置は“アウト”にあって、漂白し続けているうちに間違って“イン”に入り込むこともある。結局のところ、わたしはボヘミアンなのでしょう(笑)。若い頃から本当に好きで聴き続けてきた音楽家は、特定のジャンルに属さず、自分自身のスタイルを勝手に捏造してしまったアウトサイダー達です。例えば、ローレン・コナーズ、ゲザリア・タザルテスのような。彼らの音楽には、ジャンルの内側にしかいないアーティストにはない、やむにやまれぬ緊張感があります。自分の存在そのものをかけた孤独な戦いですから。

リクト:ギターを弾き始めた十代の頃からずっとモーダルな音楽に興味がありました。たとえば、マイルス・デイヴィス、バグパイプ音楽、ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(中世ドイツの女子修道院長であり、作曲家)などの同じスケールで演奏するスタイルです。ロックはわたしに取ってはある種のモーダル音楽でした。ひとつのシーンに属していたわけではないのでこういう聴き方ができたのでしょう。

ーージャンルでではなく、「実験的である」という姿勢において共感するアーティストのつながり、というのが多様性を生んでいる、ということですね。先ほど、リクトさんは60〜70年代のロックに影響を受けたと言われましたが、その中にモーダルな要素を聴いていたということと同時に、その逆に「モーダルなもの」ということが中心にあって、それらが、ロックやジャズやミニマル・ミュージックや古楽などを媒介したということでしょうか。

リクト:ロックを聴く以前はクラシックを聴いていました。モーダルなバグパイプ音楽や一部の民族音楽も好きでしたが、それらとロックはわたしにとって別のものでした。十代の終り頃、ジョン・コルトレーン、特に「Afro Blue」を聴いて、ドアーズがその曲を「Universal Mind」で引用していることに気づき、ようやくモーダル音楽と即興を多用した60年代のロックがわたしのなかでつながりました。オールマン・ブラザーズ、ジェファーソン・エアプレイン、ベルベット・アンダーグランド、ザ・バーズなどです。


Alan Licht & Aki Onda “Everydays”
アラン・リクト & 恩田晃 『エヴリデイズ』
vector 10 / HEADZ 114
¥ 2,415(tax incl.)¥ 2,300(without tax)
HEADZ / Family Vineyard
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