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木下美紗都『海 東京 さよなら』

WEATHER 028 / HEADZ 87
¥ 2,500 (tax incl.) ¥ 2,381 (without tax)
2007. 3.7 on sale

ウェザー初の女性ソロ・シンガー、木下美紗都ファースト・アルバム、ここに誕生。
サンガツに魅了されたある女性アーティストが、そのリリース先であるWEATHER宛に一枚のCD-Rを送った。
WEATHERの主宰者である音楽批評家の佐々木敦はこのCD-Rをいたく気に入り、彼女の作品をリリースすることを決めた。
坂本龍一主宰のオーディション番組でも認められたその才能は、詞や曲を自作するに留まらず、アレンジから録音、ミックスまで殆ど一人でやり遂げて、1枚の素晴らしいアルバムを完成させた。
彼女の名前は木下美紗都。
昨年秋に初めて自分の曲を人前で披露したとは思えない程、その声、そのメロディ、そのサウンドは非常に魅力的である。

1. サマーレイン 3:43
2. 発熱 3:43
3. ボーイ・ミーツ・ガールPV) 3:33
4. 手と手 4:22
5. wrong days 2:36
6. 世田谷は夜 3:52
7. HEAD LIGHT 3:54
8. 梅の花 4:00
9. さらば 5:26
10. 歌 4:20
total time 39:31

all songs written, played, recorded and mixed by 木下美紗都
mastered by 北村秀治 at AUDIO CITY
except, 3. words-idea and song-source from 皆見ひとみ
8. electric guitar played by 高見沢克哉
9. words written by 佐々木靖之
sing with, song-source from 大吉信隆


木下美紗都 『ボーイ・ミーツ・ガール』PV公開中!

監督: 佐々木靖之

木下美紗都 雑誌掲載情報

CD Journal 3月号(2/20発売) 今月の推薦盤(4cアルバム・レビュー)
JUICE 3月号(3/1発行) アルバム・レビュー
FUDGE 4月号(3/10発売) アルバム・レビュー
Invitation 4月号(3/10発売)アルバム紹介
Sound&Recording magazine 4月号(3/15発売)アルバム紹介
BARFOUT! 4月号(3/17発売) authentica(1/2p)
MUSIC MAGAZINE 4月号(3/20発売)アルバム・ピックアップ(1/2p)
STRANGE DAYS 5月号(3/20発売) アルバム・レビュー
bounce 4月号(3/25発行) インタビュー
INDIES ISSUE(3/29発売) アルバム・レビュー
JUNGLE★LIFE 4月号(4/1発行) アルバム・レビュー
Lingkaran 5月号(4/15発売)アルバム・レビュー

木下美紗都 『海 東京 さよなら』 セルフ・ライナーノーツ

1.サマーレイン
 この曲はこのアルバムの中でたぶん一番古い曲で、初めてギターで作った歌だ。まだ自分のギターを買う前、使われずに実家に置き去りにされている友達のクラシックギターを持って来て、コードも弾き方も分からないまま作り始めた。ギターの音はそれだけでとても美しいのに、私は多くのことに憧れすぎてなかなか一つの歌を形作ることができなかった。誰にでも思い描くことのできる夏空は、ただそこに胸のすく青を示しているだけなのに、思い描くことそれ自体は人の心のもとで様々な淀みと共にある。それでも、そうしたものを期待通りに裏切ってくれるような夏空があるとして、誰のものでもないそれに、匿名ではない私が声を上げること。それがどういうことなのか、ずっと考えていた。

2.発熱
 こういう人はたくさんいると思うけど、私はよく、ループ可能な好みのコードやフレーズをみつけてはそれだけを弾き続け、下手すると何時間でもそれだけを弾いて過ごしてしまうことがある。ずっと繰り返すことのできるフレーズを反復し続け、それ以上展開しないようなその行為自体とても自閉的だけど、むしろそのフレーズ自体が自閉的なのであって、反復することが更なる反復を要求する。だから、そこから別の場所へ行くこと、あるいはその反復を断ち切ることの前には、抗い難い力が働く。その力に対して、自分はどういう態度を取り得るのか、私が気になるのはそれで、反復して、反芻した後、それがほんの少しだけ変わる時に現れるものって何だろうか。

3.ボーイ・ミーツ・ガール
 彼女は絵描きだが、ある時実は私にも作りかけの歌があると自慢気に言った。自慢気に言い出した割にはとても小さな声でおっかなびっくり歌ってくれたのが、出だしの「君の街は朝が来ない街だ」という一行で、そこから先はなかった。それがあまりに可愛らしかったので、すぐに続きを作ろうと言って作り始めた。二人して何でもいいから思いつく言葉を言っていったけれど、何百個と出てくる言葉を私は却下し続け、それは歌になりかけていたけれど、歌になることはなかった。私はその後ずっと、朝が来ない街ってどんな街だか考えていた。彼女にとって、その街は君の街だから、例えば「それも悪くはないけど、」なんて一言で済ますこともできる。でも私は、君の街って言いながらそれが誰の街だか分かっちゃいない。

4.手と手
 私は歌が歌いたいから自分の歌を作る。仮に自信を持ってそう言ったとしても、それだけでそこに自分と音楽を成立させることにいつも不審を抱いている。だから私は歌いたいし、歌いたくない。この曲はたぶん、自分のそういう気持ちが危ういことと隣り合わせで書いたから、この曲を歌うのはいつも気が重い。いつだって自分は歌が歌いたいと堂々と言わなければいけないような気持ちになる。それが堂々と言えることか分からない。ただ、この世界に人間が存在した時から歌うという動作があったとして、それが何かは分からないけれど、もしこの世界にどんな音楽があってもいいのなら、私は自分の歌を歌う。

5.wrong days
 大学生の頃、よく自主映画の音楽を作っていて、これもこのアルバムを作っている間に頼まれて作った、ある短い映画のための曲だ。こういうことをしておきながら言うのも間違っているけれど、映画の音楽は本当に難しくて、これはできる人とできない人がいると思う。そして毎回これは自分にはできないと思う。それでも頼まれるとやってしまうのと、面白そうだとも思ってしまう。この時も、結局何が何だかさっぱり分からなくなって何もできないまま、時間がないので録りますと言われ、泣きそうになりながらギターを弾いた。全て砕けてしまえと思った。雪が降っていた。

6.世田谷は夜
 人が多く集まっていながら、箱庭のような場所を作ることがある。たぶん東京にはそんな場所がたくさんあると思う。誰かが誰かへとリアクションし、誰かが誰かへのリアクションをする。リアクションがアクションの代役になる。自由に飛び交ってそれぞれ無関係のようでいながら、私たちはそれから逃れられない。誰もが踊らされているとしても、誰も踊りをやめることはできない。私たちの動作はぎこちない。だけどそれは、私たちの手と足と場所との葛藤で、その葛藤の中で、人という変な生き物は努力し続けているのだろう。

7.HEAD LIGHT
時々、自分のしていることはパズルのようなものかもしれないと思ったりする。だけど最初から全てのピースがそろっている訳じゃない。どこにもないかもしれないピースを探し続けることもあるし、手元のピースを変形させもする。全てを等しくありのままに照らすような光がないならば、私たちはそれぞれが持つ光で自分の前方を照らすことしかできまい。だから私は私に見える世界の切れ端を集めてはつないでいく。私が歌を作る時にしていることはそういうことでしかなくて、ピースが合うと思うまで、詩もメロディーも一つの音もつないでは取り替える。それで、そこにあるピースが反応し出すように思える時、リアル、らしきものが見える。リアル、が何かは一言では言えないけれど、もしそれが自分だけのバラードでいいなら、パズルなんかする必要はないんだ。

8.梅の花
 歌は、人の声であり言葉だから、いつもいつも聞かなくたっていいと思う。皆、誰の声も誰の言葉も聞きたくない時があるだろう。そういう時は聞かなければいい。でも、どうしても誰か人の声が聞きたい時もあって、歌はそういう時に聞いてもらえればいいのかなと思ったりもする。そう言いながらも、歌を作る私は無闇に人に話しかけているのかもしれない。でも、どうしても誰かに話しかけたい時がある。自分以外の誰かが必要な時がある筈で、この曲はそういう歌だから、自分で音を重ねるのをやめて、友達にギターを弾いてもらった。だから、こういうふうに弾いてくれとかは特に指示していない。ただ歌と同じ位歌ってくれと、意味の分からないことを言っていたら、彼は私の歌に相槌を打つようにギターを弾いてくれた。

9.さらば
 このアルバムを作り始める少し前に、この曲のクレジットに名前の載っている二人と、沖縄の座間味島という所でキャンプをした。それぞれ別の場所にいて久しぶりにそこで落ち合ったのだが、どうしてもギターを持って来てほしいと言われ、私はギターを持って東京から飛行機でそこへ行った。そのギターで二人は歌を作り始めた。片方が言葉を言っていき、片方が適当に歌いながらテレコに録っていった。私はそれをただ眺めていた。東京に帰ってから、私はその時の詩だけを元に、全く違う歌としてこの曲を作り始めた。詩が短いので、サビの所は後から増やしてもらった。そうしてある程度デモができてから、沖縄で彼が歌っていたうろ覚えのメロディーをデモに合わせて口ずさんでいたら、コードも違うのに妙にしっくり来たので、それをほぼそのまま曲の後半にくっつけて彼に歌ってもらった。そんな荒技で、曲はどんどん変わっていったし、どんどん長くなっていった。滝のように流れ落ちて泡立った風が集まり出すことも、「滝のように流れ落ちて泡立った風が集まり出す」と人が語ることも、同じ位のスピードで、変わり、消えていく。でもその二つのことの間には、とても長い音楽が流れているのかもしれない。

10.歌
 何年か前に友人とお酒を呑んでいる時、「家族の前でも歌えるようにならないと駄目なんじゃないの?」と言われたことがある。その時は冗談じゃないと思ったが、私は今そういう状況で歌を作っている。他の人がどうかは知らないが、私は自分の歌を親や姉妹に聞かれるのは今でもしんどい。私は家族になるべく自分のことを話さないし、聞かれても答えない。だから家族は私のことをとても知りたがっているし、部屋で私がヘッドフォンをして歌を録音している時も、耳をそばだてているのを知っている。でも逆に、家族にはきっと何もかも知られているから全く嘘がつけないのだ。でも私は嘘をつく。親の前で必死で嘘をついているのだと思う。


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