• 『The Old Ones: the forgotten recordings of HOSE』覚書


    宇波拓



    この二枚組LP『The Old Ones : the forgotten recordings of HOSE』は、HOSEの旧作と未発表音源から選曲したベスト&レア集と謳ってはいるが、ほぼ全曲新たに編集、ミックスを施し、一部追加録音も行っている。新たな作品として聞いてもらえたら幸いである。

    以下、録音データ的なこと。

    『HOSE』
    Schoepsの球形マイクKFM-6と、John Hardyのプリアンプによるワンポイントステレオ録音。CIMPの録音ポリシーに影響を受けている。

    『HOSE II』
    フランスから、本来はフィールド録音作家であるエリック・ラ・カーサに来てもらった。マイクは複数立てているが、その場でミックスしているので素材はステレオ。CAN方式。

    『HOSE III』
    HOSE、はじめてのマルチトラック録音。大半の曲はライブ録音をベースにしている。キング・クリムゾン『暗黒の世界』方式。

    録音フォーマットはまちまちだったが、192khz/32bitにアップコンバートしてからマスタリングした。

    A1 : Shipwrecking
    ある友人に「CDに同じ曲が二回入っている。波形を比べたらまったく同じだった、どういうことなのか?」と聞かれたが、同じ曲を二回入れたとしか答えようがなかった。
    何度聞いても記憶への定着をすり抜けて行ってしまうようなフレージング、古池君の真骨頂といえるかもしれない。

    A2 : Golem hunt
    突如おとずれたゴーレムブームにより、やたらとゴーレムにまつわる曲名が増え、混乱を招いた時期があった。

    A3 : Mud's Tango
    プライマス「My Name is Mud」へのタンゴによる返答。「shall we dance ?」できこえる深い残響は、録音場所であるl-eの地下空洞による。SEを抜き、より生々しいミックスを試みた。

    A4 : Baseball
    初期アルフィーのような美しいコーラスワークを目指したが、できなかったので、全編にわたってピッチ補正をほどこしている。

    B1 : Captain The Deceased
    沖島さんに船乗りの話を、とお願いしたら、プロットを二つ原稿用紙に書いて用意してくださっていた。ここではオリジナルとは異なるもう一つのバージョンを収録している。沖島さんから受けた影響ははかり知れない。

    B2 : stones
    大映怪奇映画的効果を狙ってピアノを入れていたが、ここでは録音時仮でいれていたギターに戻した。ラスト、Eventide H3000のクリスタルエコーをシミュレートし、きらめく光につつまれる江崎さんを表現。

    B3 : on extinction *
    オリジナルでは泉君が猿ぐつわをしながら歌っているので歌詞が聞き取れない。ここでは、田中功起『録音スタジオとしての美術館』と、歌詞を配布してお客さんに歌っていただいたキッドアイラックでのライブ録音を繋げている。テンポはタイムストレッチでむりやりあわせた。歌詞を書いたことは片手で数えられるほどしかないが、4節のなかに三つの文明と、人類無きファーストコンタクトを盛り込んだこの歌は、なかなかうまくいったのではないかとおもう。「文明栄えて 機械が反乱 人類滅びた後 異星人やってきた』

    C1 : The Vanished
    泉君が書いた謎のメモを元にした曲。当時泉君が傾倒していたブルータル・デスの影響がある。

    C2 : gone astray
    1997年、神戸BIG APPLEでおこなわれた内橋和久さん主宰のNew Music Action Festivalにて、まだ江崎さんに入ってもらう前、四人編成のHOSEが最初のライブをおこなった。この曲はたしかそのときからあったはず。服部君のビートがいかに強靭か、気づいていないのは本人ばかり。

    C3 : a death of wooden stick
    2018年某日、この曲のある部分のために追加ダビングを遂行した。ぜひ、実際に聞いて確かめてほしい。冒頭の合唱部分には、ファースト収録の「on death」から抜き出した合唱を重ねているのだが、ほとんど気づかれていない。また、エンディング部でギターにテープエコーがかかっているのはレッド・ツェッペリン「The Rain Song」へのオマージュだが、いまのところ誰からも指摘されていない。

    C4 : Saito Hose's Holly House
    斎藤ホースとはだれか....?HOSEには、「このバンドのすべては斎藤ホースなる人物の意志によって動かされている」という設定に基づいて活動している時期があった。久しぶりに譜面をひも解いてみると、作曲者が「斎藤HOSE」「斎藤orホース」「斎藤★ホース居士」となっている曲が確認された。後に、中尾さんの旧友である斎藤さんが、斎藤ホースなのだということで落ち着いて、以降、その設定は忘れ去られた。
    管楽器がミニマルなフレーズを吹くパートは、建物の廊下をエコーチェンバーにして、エリックがリアルタイムでダブミックスしている。途中で聞こえるドアの開閉音は、うっかり録音中に建物に入ってきたHEADZ植松君によるもの。

    C5:Inui Hajime *
    鎮西尚一監督『スリップ』テーマ曲。乾肇は主人公の役名で、演じた伊藤猛さんも亡くなってしまった。伊藤さんには、あれは俺のテーマ曲だろ?はまってた、と言っていただいた。ここでは、宮下公園ナイキパーク化に抗する「宮下公園 アーティスト・イン・レジデンス」の一夜での演奏を収録した。

    D1 : a thing that is not as it has been used to be
    2018年にあるパートを新たに録音しなおした!

    D2 : A Journey to Prefecture N *
    田中功起『トンカツに聴かせたいミュージック(ドキュメント)』のために作った曲。ここではその撮影時のテイクを収録した。この映像作品について、当時書いた文章が見つかったので、ここに掲載しておく。

    ことの発端は服部が酒の席で口走った「トンカツ屋でライブやりたいっすねー」の一言だったと田中功起は述懐する。だが当の服部にそんな記憶はない。田中、ギャラリーの青山、HOSE、撮影クルー、総勢10名のチームは28年ぶりの降雪量を記録したというまさにその日の新潟へ、勘違いに向けて旅立ったわけだ。朝、恵比寿駅に集合。借りてきたワゴン車のETCにクレジットカードを突っ込み、はいらねぇぞと逆切れする青山に、一抹の不安がよぎる。トンネルを抜けると雪国…どころではなく、完全にホワイトアウトしてフロントガラスからはただ、無地の白を往復するワイパーがみえる。前の車両が確認できない上、ブレーキもかけてもすぅーっとすべっていく始末。吊り橋効果によりクルーの結束は高まるが、それ以前は面識もなかった者同士もいて、共通の話題は必然的に最大公約数、すなわち猥談だ。特に、荒木(偽名)の歯茎にたいする異常なまでのフェティシズムは、神秘性すら帯びていた。ほかの話題は油まみれ屋形船事件、カタツムリの交尾など。高速は通行止めになり、予定時刻を大幅に過ぎても道は未だ半ば。昼食を求めながら明らかにこれはアウトだろうというラーメン屋を後目に送ったところ、後続の車にいた泉から「おめーらぶっころすぞバッキャロー!」と電話がはいる。ラーメンが食べたかったようだ。服部は、我々をトンカツ屋へと導かんとするカーナビの女性ボイスに対し「そうだね」「うん」「…。ねぇ、すねてるの?」と相づちを打ち始める。全員、相当意識が混濁してきた。(中略)とんかつ「とき」到着。店で待機していなかった美術館スタッフと合流。ちなみにこの中のキュレーター(後にニセと判明)、撮影資料用にトンカツ屋の写真を要求したところ、トンカツ自体の画像を大量に送ってきたという剛の者である。さらにちなむならば、新潟にはソースカツ丼なる名物はあるそうだが、トンカツは特産でもなんでもない。別に東京の店でもよかったのでは…と問わないことはチームにおける暗黙の了解である。(中略)這々の体で撮影を終えもう夜中。宿泊先近く唯一空いていたたしか魚民に一同転がり込む。係のお姉さんにおすすめの魚を問うと、新潟はノドグロがおいしいでーす!とのなんとも愛らしく頼もしいひとこと。ではそれをとお願いすると、当店はチェーン店なので魚はすべて輸入ですからおいてませーんとのお答え。暴力沙汰にならなくてよかった。(中略)われらがいのちの結晶体たる『トンカツに聞かせたいミュージック(ドキュメント)』、そもそもの委嘱元たる企画展「新潟への旅」は、自然物を用いた作品から湧いた大量のクモが怒らせてはいけない人の逆鱗にふれ、わずか一週間程度で打ち切り。その後に予定されていた「日本の国宝展」も中止、館長は更迭という大事になったことを、私は新聞で知った。










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